「現代日本型BI/IM」概説(2021.5)
1.ビジネス・インキュベーション来歴
ビジネス初心者の起業成功率を高める施設を、卵を孵化する装置がincubatorであるのになぞらえて、business incubator(BI)と呼んだのが始まりです。起源はアメリカのニューヨーク州バタビアという小さな街の出来事で、大きな農機具工場が倒産し、職の無い失業者が起業するのを不動産業者だったJoseph Mancusoが1959年に低廉な起業スペースやノウハウ提供をした活動で、後に彼はincubator manager(IM)と呼ばれるようにな りました。今は施設呼称incubatorは行為を表すincubationに発展し、BI/IMとイニシアルで略称されています。
その創職結果が良かったことから、類似の試みが世界各地でそれぞれの事情を加味しながら広がり、約30年遅れてわが国でも試みられることとなりました。しかし、わが国では、ハイテク事業による急成長企業の意図的創出を図る施設が建設されましたが、期待どうりの結果は少なく、それまでの運営ノウハウと地域事情を考慮して「現代日本型BI/IM」が出来上がりました。
2.現代日本のBI/IM
BI/IMというコンセプトがわが国に導入され、今日までにいろいろな解釈がなされましたが、現在はBIを産業創造、IMを産業創造師 と表現しております。
それは地域の暮らし全体を考えると戦術としての創業支援施設、創業相談員では事足りず、地域全体の戦略を考え、それを実行する人、即ち産業創造師の必然が生じたからです。このようにBI/IMの解釈は時代と共に変遷しています。
3.ベンチャーから地方創生へ
わが国では過去に何度も景気が低迷する度に、ベンチャーブームが政策の後押しで訪れましたが、いずれも時と共に消えて行きました。ベンチャーと呼ばれる革新的な事業が急成長して存続すればそれにこしたことはありませんが、そのような企業が行政の支援で短期間に容易に生まれると考えたことそのものが事業に対する認識が余りにも稚拙であったと言えます。
そうこうするうちにわが国は都市部の経済一極集中が進み、地域の疲弊が推定されるに到り、地域創生が叫ばれていますが、ようやく原点から地域経済を考え対処するBI/IMが必要とされるの時代になってきました。
4.IMは何をするのか
わが国のIMを志す人は、当初は通産相(当時)によって創設された産業プラットフォームの職員でしたが、その後の政策の変化により、下図に示すようにあらゆる産業支援に関わる機関の創業担当者に替わってきました。
従って、IMの役割は典型的なBI施設の担当者の職能から各種産業支援機関の職員にも適合する内容へと変化してきました。
即ち、既に存在する企業を振興したり救済する仕組の中の専門家に対し、何も無かったところから新たな事業を創造する起業家を育成する仕組や専門性を付与しなくてはなりません。
IMの専門性とは、企業の合理化や新規事業の評価をすることではなく、中長期観点で地域に新しい可能性の芽を育て、それらの芽をを林や森にまで育てる特殊な能力です。
そのためには約5ヶ月にわたる研修により技術面の強化はさることながら産業創造への思考様式であるIM-Shipを会得して初めてIM活動が可能となります。現在IM-Shipの要素をTSWPとして研修の基本に据えています。
・T(Tactics):Micro観点による起業者と事業の速やかな育成戦術
・S(Strategy):Macro観点による地域産業創造の策定戦略
・W(Will):活動を展開するうえでの明確な意思
・P(Passion):起業者をモチべートし地域全体をリードする情熱
5.持続のためのBIシステム
わが国の人口減少は顕著に進行していますが、これに加え2020年からの新型コロナ禍により消費者の行動制限で在来型のビジネスモデルが成り立ち難くなっています。起業希望者が減少しビジネスのあり方まで変遷してきた時代に適応するため、右肩上がりの発展が期待出来ないこれからは、地域経済の「持続」に重視し、直線活動的に行われた来た人材・事業の育成活動に先輩が後進を輩出する活動を加え、BIシステムの環状形成に注力します。
環状形成のため、既にIMが若者の起業教育に務めたり、女性起業家予備軍を育成する「SA制度」(スタートアップアテンダント)が始まっています。これらに加え、今後は先輩起業家がスタートアップ仕立ての人をサポートしたり、産業支援機関に対しIM志願者を増やす対策など、リングを強固にする仕組が望まれます。